野上 薫
器の作用
OPEN
木 金 土 日
13:00~18:00
2018.5.10~5.27
2018年 5月のCRISPY EGG Galleryでは、陶芸作家の野上薫さん(http://nogamikaoru.com)をお招きし、展示『器の作用』を開催します。
野上薫さんは、神奈川県出身の陶芸作家です。1988年に多摩美術大学油画科の陶芸コースを卒業、2012年に藤野の峠のふもとに移り住み、制作を続けています。
代表的な作品に、陶土をひも状に伸ばして螺旋状に積んでいく「ひもづくり」と呼ばれる成形方法をとった作品群があります。通常のひもづくりでは、積んだ陶土の轍(わだち)を均して滑らかにするものですが、その轍を均さぬまま、揺らぐ黒い土の紐の間に白い土を埋め込むことによって、ひと目見て彼女の作品と分かる仕上がりになっています。
野上さんの作品では、形の扱われ方も特徴的です。ご案内状に掲載しているケーキドーム型の作品は、その上下を逆にすると、蓋の付いた底の深い容器、という別形態で使用できるようになっています。
過去作である小さなリム皿にも、変わった仕掛けがあります。見込みに呉須で蝶が描かれた磁器のリム皿は、上下を逆にすると、台であった部分にぐるりと描かれたリボンによって麦わら帽子の姿になり、帽子の中に留まった蝶という立体的な風景が現れるのです。
前者には汎用性という利点もありますが、他の作品にも共通する意匠を鑑みると、あくまで形に対する強い意識、あるいは遊び心が先にあることが伺えます。
「ひもづくり」のものの他の作品に、先述した帽子や浮き輪を模した形の磁器の食器や、1枚の板状の粘土をペーパークラフトのように切り折りして組み立てた耐熱器などがあります。いずれも、形が出来る動機に特徴があります。
このように、野上さんの陶器は、瞬時には用途が特定されない不思議な外観をしていますが、その中でも、今回展示する「ひもづくり」の作品では、粘土の紐という単一のエレメントの所業が目に見えるためか、あるいはその幾何学的な形のためか、食器・花器・オブジェ といった名目の各作品がひときわフラットに見えます。それらの一堂に会する本展示では、細胞群が分化して生物の各器官を作っていく姿を想起するような生命感と、しかし器官という単位であるがゆえに応答しない無機質さを見せてくれることと思います。
ここまでのご紹介だと、野上さんの食器の実用性を疑われる向きもあるかもしれません。しかし、一風変わった外観に反してお料理、他の食器との調和をとることは難しくありません。黒くマットな質感は食べ物の色つやを引き立て、一皿でも彩りが生まれます。また、一食が特定の様式に沿うとは限らない家庭の食卓では、各料理に合わせた食器同士の調和が難しくなる場合がありますが、特徴的な食器を一点アクセントとして登場させることで場をまとめる効果が期待できます。よく焼き締まっているので、染みがつきにくいことや、シャープな作りから想像されるより丈夫であることも、気兼ねなく使えるポイントです。
CRISPY EGG Gallery で初めての陶器の展示、是非お手に取ってご覧ください。
2018年4月
企画
中元寺琢磨
※本展会期に重ねて、5月19日・20日の日程で『藤野ぐるっと陶器市2018』が開催されます。野上薫さんの運営する「◯△ gallery(まるさんかくギャラリー)」が会場のひとつとなっています。野上さんの作品も、また違ったものを御覧いただけるかもしれません。ご興味ある方は行かれてみてはいかがでしょう。
詳しくは以下のリンクより。
http://yuruyuru.wixsite.com/fujino-potter-market
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『「器の作用」展示の補足の補足』
今回はいつもと違う展示となった。
以下は、中元寺氏の補足の補足として読んだいただければと思う。
2015年よりギャラリーを運営し始めて3年目となる。
作家からギャラリー業へと活動の主軸を変え、新たなカオスに出会えることを不安半分期待半分で挑戦し始めたことを憶えている。
最初はなにもわからないということもあり、ある程度のカオスの興奮は味わえたのだが、3年目ともなるとそこそこのルーティンが出来上がってくる。
作家と打ち合わせをし、それに伴う広報や営業をし、人を雇いetc
一人で運営していて、外からも内からも批判はあまり発生しないゆえに、簡単に自動化していった。
別にルーティンが悪いわけではない。
ルーティンが出来上がってくれば、余計な仕事は削られてくるものなので、その余力を別へと当てはめられる。
例えば2017年に行われた三渓園の展示やアートフェア参加などがそれにあたる。
ただ一方で、当初「カオス」を様々な作家を通して味わうことができるのではないか?と心躍らせていたわけだが、どうもそれはあまり実現できていない。
いくつか理由があるが、今回はその主軸となる場所の話をする。
場所の問題。
CRISPY EGG Galleryはホワイトキューブでなく、ただの古い家なので、最初はその特殊性は「大いに作家の想像力を刺激し、自由な展示が行われる」方向へと作用されると思っていたが、おそらく作家はそれを「抑圧的」と受け止めていたようである。彼らはその抑圧を乗りこなそうと、展示空間へのアクセスにおいて、作家の側で(無自覚に)ネガティブな、もしくは不自由なコントロールが働いてしまっているように見える。
そもそもハコのサイズも小さいし、様々な建具や梁がせり出している。そのどこにでもある風景が、「むしろ特殊性をもつ」と考えていたが、民家という「凡庸さ」は当たり前にそして暴力性を発揮してしまい、私が求める「カオス」は顔を顰めてしまっている。
これはあまり想定していなかった。
もともと私は、カオスが発生する要因として「制御不可能性が高い」ことが重要だと考え、展示への過度な介入はできるだけ避けていたが、場所自体が抑圧的に働くのであれば、カオスなんてものは自然発生しようがない。というか、「制御不可能性が高い」ってなんだ。それ自体がコントロールを示唆してるではないか。
一旦そこに疑問を持ち始めると、ホワイトキューブ(それはそれで制度としての批判があるが)という、人工的につくられた「なにもない空間」という欺瞞が、(たとえそれが欺瞞であったとしても)自由に、ポジティブに、展示空間を演出できる力を持っているのではないか、という疑念にかられてしまう。
また、2017年に三渓園での展示を企画した。展示場所であったお堂と彼女の墨の作品の相性が良く、作家の鈴木愛弓氏は大いにその場所を使いこなし、好評を得た。
一方で同じ作品はギャラリーの壁面に入りきらず、対に置かれていた大作は一枚だけとなったにもかかわらず、部屋の狭さゆえ空間を圧迫。雰囲気は三渓園とは全く違うものだった。
三渓園では三渓園の。CRISPY EGG GalleryではCRISPY EGG Galleryの作品が立ち上がってくるのであれば、これはつまりCRISPY EGG Galleryという場所では「凡庸さ」による空間の抑圧的な働きにより、各作家の身体を巫女として通してCRISPY EGG Gallery的作品が亡霊のように呼び起こされる、と考えることができる。
私としてはこの「CRISPY EGG Gallery的作品が亡霊のように呼び起こされる」というものは可能な限り排除していきたいと考えている。
なんどもなんどもそんなゾンビみたいなものに(しかも同じような顔をしたような!)付き合いきれないからだ。
これは作家への批判という意味ではない。作家というのはあくまで巫女もしくは媒介者であるので、当然の結果と言える。どちらかといえば、場所や制度の作用がどのような効果があるのか、無自覚であったことへの自分への注意喚起である。
※
このような理由により、これから様々な形でCRISPY EGG Gallery的なものの変質を試みていきたいと思っている。
本展示の企画者はスッタフの中元寺琢磨氏である。
ギャラリーにご来場いただいた方は、もしかしたら彼のことを知っている人もいるかもしれない。
「器の作家さんをお願いしたい」という要望以外は、作家の選定、企画、広報などの詳細はすべて彼が行っている。
場所を変えることは経済的理由によりできない。
であれば制度を変えることで、少し何か違ったカオスが発生するのではないかという期待がある。
また「陶器」という異なる分野を選んだのもそれが一つの要因である。
作家である野上氏は今まで扱った作家の中ではもっともベテランの作家である一方、「○△ギャラリー」を運営するギャラリストの面ももっており、学ぶことが多くある方だと思っている。
次回も同様の展示を企画している。
さてどうなるのだろうか。
心から楽しみにしている。
CRISPY EGG Gallery
石井弘和
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Works
底径約40cm × 高さ約50cm 2005 撮影 長塚秀人
底径約40cm × 高さ約55cm 2005 撮影 長塚秀人
幅約28cm × 奥行約40cm × 高さ約20cm 2005 撮影 長塚秀人
底径約30cm × 高さ約50cm 2005 撮影 長塚秀人
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KAORU NOGAMI
野上 薫
【STATEMENT】
器とオブジェの境を意識せずに制作を続けてきました。
大学在学中は陶を素材としたオブジェやインスタレーションで作品を発表していましたが、いつのまにか器制作がメインになっていました。意識しないことで、私らしい器が出来ているのではないかと思います。
技法としては、古来からある紐作りです。粘土を紐状にして積み上げていくものですが、紐の跡を残しているところが違います。強調するために白土を象嵌しています。
野上薫
野上薫 作品使用例
【EXAMPLE】
撮影 中元寺琢磨
撮影 中元寺琢磨
【◯△ gallery】
(文章 中元寺琢磨)
◯作家略歴
1965 神奈川県生まれ
1988 多摩美術大学油画専攻陶芸コース卒
2003 相模原市緑区旧津久井町に移築
2012 相模原市緑区牧野にギャラリーとアトリエを建てる。
○PROFILE
gallery ES(表参道)3回
うつわ楓(青山)5回
サボア・ヴィーブル(六本木)5回
2018 igalleryDC(石和温泉)