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井銅心平

​器体の宴

2019.1.31~2.17

井銅心平さんは1981年熊本県生まれ、現在37歳の陶磁器の作家です。

大学卒業後、現代唐津焼の窯「隆太窯」で中里太亀氏に師事し、2010年より熊本県宇城市に設立した陶房「萩見窯」で制作をしています。

 

井銅さんの作る陶磁器は、極めて端整です。

日本の陶磁史に登場する様々な様式を踏襲・引用しているにもかかわらず、その背景の重さを感じさせない特異さがあります。様式を記号のように軽くまといながら、作品の種別ごとによく統制された成形は、制御された焼成により、曖昧さの少ない端整なフォルムの器を生み出しています。

 

中里太亀という、現代唐津焼の中でも時代性や他の様式を積極的に取り入れることで知られる作家の元で修行したことや、陶芸に進むきっかけであると本人が語る、建築を学んだうえでより小さな単位のデザインに興味を持ったこと、少年期から多彩な料理を家族や友人に振る舞う習慣があったことなどは、無視できない布石です。

いずれが要因にせよ、彼の作品が、符号や手の痕跡などといった共通のディテールから「井銅心平」という作家性を見出させるよりも、手に取り料理や草花とともに使う際の引き立て役となる方向へと精錬されていることに疑いはありません。(実際に井銅さんの器は、複数の和洋の飲食店で提供に使われています。)

しかし、今回の展示は敢えて、実用からやや距離を置いたものとなります。

 

そもそも器の展示は、作家のもとと使い手の間に位置する中間地点であり、特に料理や草花との親和性の高い器にとっては、その身体そのものの総合的な可能性を試行する数少ない機会です。実用上の評価につながりやすい器だからこそ、その結果を招く過程としての展示では、より自由な振る舞いの可能性を提示するのが、中間地点としての正しい役割ではないでしょうか。

このような考えから、本展は、井銅心平さんの器の「展示という場だからこそ見られる振る舞いを展示する」という俯瞰的な試みが、「器そのものがどう振る舞いうるかを探る」という、実用上の評価のための視点と接続する場として機能させることを狙いとしています。

 

そのためにまず、 井銅さんの器作品を、料理や草花のイメージから引き離ししました。このとき、器(うつわ)は食器・花器といった外から与えられた価値をいったん失い、そのフォルムのみを残した「器体(きたい)」として、より多くの振る舞いを獲得します。

一般的な助詞関係「宴の器」とは逆になる『器体の宴』という展示タイトルも、同様の狙いによるものです。

器体の振る舞いが人間の実用的目的に先行する展示という場で、まだ料理や草花と出会う前の、実用におけるモラトリアムにある器たちが、その「器体」でどのように振る舞うことができるかをめいめいに試みる。その姿もまた、宴と呼ぶことができ、それを見ることは、舞や踊りを目で追うのと同じように、きっと器体への理解へとつながることでしょう。

 

この展示が井銅さんの器の新たな面を引き出し、ひいては使用される方々の実用的な試行にも役立つことを期待しています。

 

ご来場をお待ちしています。

 

企画 中元寺琢磨

〈キーワード〉

・唐津焼
高麗・李氏朝鮮時代の朝鮮陶磁の技術が唐津港を通じて伝わったことにより、現在の佐賀県から長崎県にかけて作られた陶器(古唐津)、またはその様式を持つ陶器の総称。桃山時代の茶の湯の盛栄とともに多くの窯が開かれるが、有田産の磁器(有田焼、伊万里焼)の台頭による磁器生産への移行や、明治維新後に唐津藩の庇護を失ったことなどにより、ほとんどの窯が廃窯となる。のちに、陶芸家・中里無庵(=中里重雄、12代中里太郎右衛門 / 1895 - 1985)が窯跡発掘調査に着手し、「タタキ」をはじめとする古唐津の多くの技法を復興しながら自らの作陶に生かした。

・「隆太窯」
中里無庵の五男である中里隆(1937年生~)が、国内外の古窯視察・調査を経て1974年に佐賀県唐津市に築窯した窯。中里隆と、その息子である中里太亀が作陶する。中里太亀氏は、現代の生活に即して、使われる器作りを重視していることで知られる。

Works

SHINPEI IDO

​井銅 心平

【STATEMENT】

料理の映える器をコンセプトに使いやすさにも拘って制作しています。

器によって料理は様々な表情をみせ、見た目にも美味しい料理は心身の癒しにも効果があるような気がします。器を使うとは料理を盛り付ける面と食事をする道具の面があり、必ずしも両方の面で使いやすいとならないため、土や釉薬の質感や三島、粉引、刷毛目、焼〆などの手法を駆使しバランスのとれた、なるべくシンプルな作品を目指しています。

​井銅心平

井銅心平 スタジオ風景

【Studio】

井銅心平 略歴

 

1981年 熊本県生まれ

2006年 国立熊本大学工学部環境システム工学科卒業(建築学科)

 唐津・中里太亀氏に師事

2009年 中里隆氏のアシスタントとしてコロラド州 アンダーソンランチアートセンター、

       アーバタセンターへ2ヶ月間同行

2010年 宇城市松橋町に萩見窯を設立

       福岡市・ぎゃらりー島津にて初個展

2012年 種子島・野口悦士氏の下で作陶(以後二人展を開催12、13、14、16)

2013年 熊本炎と土物語 七人展に参加(以後毎年参加)

2016年 銀座・万葉洞にて中里太亀氏と二人展

       日本橋髙島屋にて個展(2018)

 

他、各都市のギャラリーや百貨店にて個展、グループ展にて活動中

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