ATRACE
-垂直の視点の面影-
加藤真史
INTRODUCTION
この度、加藤真史『ATRACE -垂直の視点の面影-』を開催いたします。
加藤は郊外住宅地的な「取り替え可能な風景」をモチーフに扱ってきました。
自身も愛知県の郊外に生まれ、また大学在学中は国道16号線周辺地域という別の郊外に住み続けてきた加藤の目には、生まれた土地と別の土地の郊外は全く同じように写っており、異なる土地にもかかわらず同質のノスタルジーが潜んでいることを描き出す作品を制作してきました。
今回『ATRACE -垂直の視点の面影-』はテーマを二つに分け、二回場で開催されます。
一つは団地や住宅街を描いた見取り図のシリーズ。
もう一つは航空写真をモチーフとしたシリーズです。
加藤はインスタグラムで、大量の見取り図の写真を収集しています。いずれも何か話のネタになるような特徴的なものではなく、ニュータウンや団地などの入り口に建てられている案内板に描かれた、誰しもが一度は見たことのある普通のものばかりです。
しかも加藤の撮影した見取り図は、ペンキの色が薄くなり場合によっては無数のヒビが入り込んでおり、その見取り図の物自体の経年と重なるようにして、その地図の対象となる住宅地や団地などが、そこに存在し続けたという長い時間を想像させるものばかりとなっています。
見取り図はその性質上、本来、経験の先に立つものであるといえます。
恐ろしく当たり前のことなので、いちいち言うことでもないのですが、見知らぬ土地についた時、見取り図は自分の目的地を探すのに大いに役に立ちます。一方で、その土地に住んでいる人や目的地にすでに行ったことがある人には全く必要ありません。
しかし、見取り図自体が現実に存在する物体である以上、描かれている情報は変わらずとも、物自体は否が応でも劣化が進んでいきます。
要は単に看板が古くなっただけなのですが、そこに掲載されている情報に変化がないのであれば、「経年」と言う情報が地図のレイヤーの上に重なったとも言えます。
仮に見取り図という道具の持つ性質に、時間軸を見出すとすれば「あなたの行き先はあっちですよ」と未来未来に開かれていると考えられます。
それとは逆に、見取り図の風化が物語る長い時間は、過去に開かれています。
加藤はその未来と過去の重なり合いにノスタルジーを見出そうとしているのかもしれません。
もう一つのモチーフである航空写真シリーズは、2021年3月に開催されたVOCA展でも発表されました。
航空写真シリーズは加藤が直接歩き回った地域を、航空写真を参考に描き起こした作品となっています。
航空写真は今や身近な存在として日常的に使われています。
見知らぬ土地を歩く時、スマートフォンの地図アプリを起動しない人は少ないと思います。その時ディスプレイには航空写真と地図が重なり合い、画面の中心に自分の現在地と行き先をつなぐ線を確認する作業は、ほとんどの人にとって当たり前の風景になっていることでしょう。
地図で得たい最も重要な情報は、現在地と行先なのですから、地図アプリによって現在地が即時にわかるのはとても便利な機能だなと思った記憶があります。
加藤は航空写真を描く時、自分がそこに居た、という記憶を巡るのだと言います。
実際に歩き、見て回った土地をモチーフにしているのですから、その鉛筆の先は彼の記憶と連動していきます。
またその記憶に色を与えるのが、本シリーズの支持体です。本シリーズの支持体は加藤がこれまで制作してきた作品の切れ端や、その下敷きに使用していた紙が大量に使われています。手が腱鞘炎になるほどに擦るつける彼の筆致は、バラバラに切り分けられると、一枚一枚の持つ意味から切り離されて、ただの何かモワッとした毛玉の模様のように見えます。また、下敷きにも淡い色彩が転写され、無数の作品がその上で完成されたという痕跡を感じることができます。
航空写真のシリーズとは、実際に歩いてみてきた風景という彼の記憶と無数の作品を制作してきた身体の痕跡が一枚の絵の上に重なり合い、航空写真として表出された作品だといえましょう。
見取り図シリーズの持つノスタルジーが、多くの人の経験に寄り添っているのに比べ、航空写真のシリーズは、個人的な記憶によって支えられた記憶で制作されているのです。
是非とも加藤の作品をご高覧いただけたら幸いです。
2021年3月
CRISPY EGG Gallery
石井弘和
INFORMATION
【会場1】CRISPY EGG Gallery
[日程]
2021年4月17日(土)〜4月25日(日)
[場所]
CRISPY EGG Gallery
〒252-0203 神奈川県相模原市中央区淵野辺3-17−5
[時間]
13時〜18時
[アクセス]
JR横浜線 淵野辺駅北口より徒歩4分
【会場2】CRISPY EGG Gallery2
[日程]
2021年4月17日(土)〜4月25日(日)
[場所]
神奈川県相模原市中央区淵野辺本町1ー36−34(グレーの小屋)
※新住所のため地図アプリなどで出てこない可能性があります
[時間]
13時〜18時
[アクセス]
JR横浜線 淵野辺駅北口より徒歩12分
ARTISTS
加藤真史
KATO MASASHI
"Trace the Trace (Hashimoto)" 2019.297×420(mm).colored pencil on paper
"Atlas p.2 (Kawasaki)" 2021.257×364(mm).Water color colored pencil on paper
"Atlas p.4 (Sagamioono Sta.)" 2021.300×300(mm).Water color colored pencil on paper
"Trace the Trace (Machida)" 2020.410×273(mm).colored pencil on paper
"The Wall (Study 習作)" 2017.320×560(mm).colored pencil on paper
"Vacancy (Fence) #2" 2017.555×830(mm).colored pencil on paper
"Vacancy (Fence) #3" 2017.275×455(mm).colored pencil on paper
"Vacancy" 2017.「第20回 岡本太郎現代芸術賞」入選 写真
【作家略歴】
1983 愛知県生まれ
2012 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻油画研究領域 修了
アーテイストユニット「風景のありか」メンバー
個展
2012 「雨中に於いて傘をたたむ」 新宿眼科画廊(東京)
2013 「彼女の見た夢」 現代HEIGHTS Gallery DEN(東京)
2014 「You Think You’re Breathing Air(それは本物の息か)?」 TURNER GALLERY(東京)
「紺青のDiscipline」 GALLERY NIW(東京)
2015 「Between The Lines」 Gallery W(東京)
2016 「この腕の痛みは自分のものではない」 マキイマサルファインアーツ(東京)
2017 「人は歩ける距離のなかにある風景のうちに住んでいる」 アメリカ橋ギャラリー(東京)
2018 「舞台裏を観測する」 CRISPY EGG Gallery(神奈川)
2019 「Surfacing from Depth」 Hideharu Fukasaku Gallery Roppongi(東京)
2020 「Trace the Trace - 僕に踏まれた街と僕が踏まれた街 -」 Hideharu Fukasaku Gallery Roppongi(東京)
グループ展
2012 「日常の変容」 BankART Studio NYK(神奈川)
「脳に映るは移る日蝕」 アキバタマビ21(東京)
2016 「Gallery Selection」 マキイマサルファインアーツ(東京)
2017 「第20回 岡本太郎現代芸術賞展」 川崎市岡本太郎美術館(神奈川)
「気配 - けはひ -」 フェイアートミュージアム ヨコハマ(神奈川)
2019 「アーツ・チャレンジ2019」 愛知芸術文化センター(愛知)
「The Optic nerve and The Devices」 CRISPY EGG Gallery(神奈川)
「MODELROOMING × HASHIMOTATION」 アートラボはしもと(神奈川)
2021 「VOCA展2021 現代美術の展望-新しい平面の作家たち-」 出展 上野の森美術館(東京)
受賞
2017 「第20回 岡本太郎現代芸術賞」 入選
2019 「アーツ・チャレンジ2019 」 入選
2021 「VOCA展2021」 出展