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鈴木愛弓 AYUMI SUZUKI

『反転トリップ』

2015.10.3~10.25

はじめに

この度、Studio TAMAGOではCRISPY EGG GALLERYをプレオープンする運びとなりました。神奈川県にある淵野辺というどこにでもある街の、半径50メートルぐらいのちょっとした歓楽街。その一角にある一人通るのがやっとの路地を進んだ先に建つ古びた建物を改装したギャラリーです。

 

つきましては、我々Studio TAMAGOはプレオープン第一回目として鈴木愛弓による『反転トリップ』展を開催いたします。

 

 

鈴木愛弓は1986年生まれ。多摩美術大学大学院を卒業後、2011年には損保ジャパン美術賞を獲得しました。

 

鈴木はデビュー当初より小説や漫画のような物語的作品を発表し続けてきました。

 

鈴木「画面の中の世界は彼女の物語であり、心象風景とも言えるでしょう。よって画面の中にはその主である人物しかいません」

 

多くの作品には少女が登場し、その少女は鑑賞者側に向けて誘い込むような目線や仕草をしてきます。私たちは誘われるがままに「少女のいる場所はどこなのだろうか?」と、さらに奥の風景に目を向ける事になります。そこは現実の世界のようでありつつも、どこか違和感があり、もしかするとこちらとパラレルな世界ではないか?という風景が見えます。一連の流れは、私たち鑑賞者がその世界の登場人物となり、少女と共にその世界へと入り込んでいくかのようです。

 

まるで小説を読み始めた時のようなこの感覚は、鈴木による物語論的な物語への鋭い感性と観察が隠されています。

 

一般的に物語論では、(物語の世界)と(現実世界)は別物であると考えます。物語を語る語り手は(物語の世界)の人であり、それは作者(現実世界)とは区別されます。同じように、語り手は読者に語りかけているのではなく、聞き手に語りかけています。読者は(現実世界)の人で聞き手は(物語の世界)の人だからです。

 

鈴木の描く少女は物語の推進力を生み出す主人公であると共に、語りかけるような視線や動きから語り手であることは十分に推察されます。それは鈴木自身が描かれている人物について「絵に向かっている時も、日常と地続きのファンタジーのような画面の世界にその年齢になって入って行くというか、先導されてゆく、という感覚がある気がします」と語ることからも、作品が物語として描かれていることがわかります。

 

一方で、彼女が物語の語り手であれば同時に聞き手がいます。

聞き手は読者(絵なので鑑賞者ですが)ではないので、少女は私たち読者ではなく、聞き手であるもう一人の登場人物に語りかけている、ということになります。

しかし、その人は決して描かれることはありません。描かれているのは少女のみ。ということは、彼女の目線の先、つまりは画面の外側に「別の誰か」がいるのではないかと想像されます。繰り返しになりますが、私たち読者はたまたま絵の前に立っているだけの(現実世界)の人でしかなく、決して(物語の世界)の登場人物ではありません。

別の誰かは(物語の世界)の決して登場しない登場人物として、存在する人なのだと考えられます。

 

これにより鈴木の絵の物語には実は「2人」の登場人物がいる、ということになります。

 

さらに、画面はいつも彼女を追いかけるようにして目線を送り、そして少女自身も誘い込むような視線や態度をとっているところから、2人の関係性は、物語へ誘引する水先案内人のような少女と、物語に引き込まれる異邦人である聞き手と考えることができます。

 

この水先案内人と異邦人としての関係性は、さらに風景にまで及んでいきます。

 

鈴木「私が描いている絵の世界は空想的要素がありますが、日常と地続きの非日常という意識があるので私自身の生活圏内の場所や物が出てくることが多々あります」

 

現実とも空想とも見分けのつかない風景は、彼女の作り出したまるっきり空想の世界ではなく、この生活世界と地続きだが、こことは違うパラレルな世界なのだということなのでしょう。絵の中の世界は異世界であるため、鈴木が風景の表現に多用する、「歪んだり」、「パターン化された」背景は、言葉を排除し幾何学的な模様やパターンへと変質しつつある、まさにその最中の風景であると言えます。

 

おそらく少女はその向こうの世界を知っています。

もしくは住人かもしれません。

一方で、誘引されている人物は自分の住む生活世界が歪んだり、パターン化されるのに違和感を持ちつつも、彼女の後を追います。

つまり、異邦人であるということです。

 

鈴木の作品を「とある物語」として捉えた場合、画面は少女が誘引しようとしている異邦人の目線、「不思議の国のアリス」でいえば、「アリスの目線」です。アリスの目線の先にはウサギ(少女)がいて、さらに奥には私たちの生活世界ではない「不思議の国」(ゆがんだ背景)が覗いて見えています。

 

これは、鈴木の作品は単にナイーブな心象風景が描かれているのではなく、物語論として観ることができる稀有な作風であると言えましょう。

 

 

CRISPY EGG GALLERYにとって、彼女のような作家をお招きし、第一回プレオープンを開催していただけることを光栄に思います。ぜひ多くの方々に展覧会へ訪れて、鈴木愛弓の物語世界を観ていただきたいと願っています。

 

 

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鈴木愛弓

1986 静岡県生まれ

2008 多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業

2010 多摩美術大学大学院美術研究科博士前期課程絵画専攻油画研究領域卒業

 

<グループ展/公募展>

 

2007  Discovery展(KEY Gallery/銀座)

        re-展(GALLERY CAVE/浜松市)

2009 石神まるこ 鈴木愛弓 三橋灯展(アートガイア・ミュージアム東京/目黒)

       第18回奨学生美術展(佐藤美術館)

2010  第46回神奈川県美術展入選

2011  第30回損保ジャパン美術財団奨励展(東郷青児美術館)

    サムホール展(ギャラリー銀座アルトン/銀座)

2012 Art shuffle〜ハートのエースをみつけよう〜(銀座三越ギャラリー/銀座)

2013  フィナーレ選抜奨励展(東郷青児美術館)

          山本冬彦と御子柴大三が選ぶ若手作家展(パレットギャラリー/麻布十番)

    山本冬彦が選ぶ若手作家小品展(Gallery ARK/横浜)

2014  山本冬彦コレクション展(ギャラリーやさしい予感/目黒)

2015  アートフェア東京(イセ文化基金・日本アート評価保存協会)

<個展>

 

2009 鈴木愛弓展(KEY Gallery & 青樺画廊/京橋)

2012 鈴木愛弓展(ギャラリー銀座アルトン/銀座)

 

<賞>

 

2011 損保ジャパン美術賞

 

 

 

 

AYUMI SUZUKI

ARTIST`S  COMMENT

淵野辺駅におりる。

 

 夕方、照りつけるような太陽は厚い雲にかくれて外は薄暗く今にも小雨が降り そうな天気だった。北口からロータリーにつながるエスカレーターを下るとキ ーンコーンカーンコーン、と五時を知らせるチャイムが鳴った。

 

 ロータリーをまわって路地に入る。沈黙を守り鎮座するラブホテルを通り過 ぎ、カラオケスナックの半開きになっている低く小さな木製扉の奥にノースリ ーブを着たおばさん達の談笑を垣間見る。身を寄せ合うように軒を連ねる店々、 猫の額ほどの裏庭に敷き詰められた鉢植えの青々と繁るさま。店先で何度もフ ラフープを練習する小学生を横目に新しい通りへ出る。白鳥座が描かれた下水 道のマンホールを踏む。

 

 夜のとばりが下りかかった目抜き通りに小さな商店街の明かりが灯り始め、 見上げるとビル看板の大きなネオンが青くたそがれゆく街にこうこうと人工的 な光を静かに放つ。横断歩道を家路へと急ぐまばらな人々と精肉店で交わされ る今日の夕飯の話題。

 

 

 知らない街を歩くのは小さな冒険のようだ。そこに住む人々の日常と訪問者 の感じる非日常。もしくは散歩という日常と発見という非日常。入り口はどこ にでもある。まるでメビウスの輪のように、現実を歩いているといつの間にか 知らない世界に迷い込み、そうかと思うとまた現実を歩いている。

 

 どちらが裏でどちらが表なのか、どちらが常識でどちらがそうでないのかは わからない。

 

 

2015年8月31日 

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